作品解説 |
『MOTION PHOTOGRAFFITI』 |
作者が20世紀末のとある1年間に撮影した、約3000枚の日記写真によって構成された作品。本来他人に見せるために撮った訳ではない膨大な写真の、言わば“供養"とも言える趣を持っている。ノスタルジックでありながら、どこか突き放した感のある軽快な音楽に乗って通り過ぎる映像の断片。思いがけず他人の人生の中に自分の姿を見る様な、デジャ・ヴユ(既視感)を喚起させる。 |
『TIMESCAPE』 |
身近な風景を、夜間に長時間露光で明るく撮影した作品。暗いはずの夜の世界が、こんなにも饒舌である事に驚く。技法的には「BORDER
LAND」に通じるが、こちらの方はタイトル通り、時間そのものを撮影した作品だと言うことができるだろう。誰もいない真夜中でさえ、風が吹き、雲が流れる。カメラは息を潜めて、それを見つめる。まるで地球の自転さえ、その身に感じ取ろうとするかのように。 |
『RAPID FIRE』 |
都市を丸ごと映像化する!と言う無謀な試みによって作られたジェットコースター・ムービー。これらの複雑な映像は、デジタル合成によるものではない。撮影したフィルムを現像する前に、カメラの中で巻き戻して何度も撮影するのである。まるで即興で作曲しながらオーケストラを演奏する様なものだ。やり直しのきかない緊張感で撮影された映像の洪水が、見る者の視覚に挑みかかる。 |
『FRONTIER』 |
白黒の映像で、ただ淡々と団地が映し出される。だが、そこに流れる豊かな時間の無言のドラマに、圧倒されてしまうのだ。作者はカンヌのカタログに、「団地は世界中どこにでもあり、どれもが驚くほど似通っている。それは国境を越えて我々戦後世代に共通する、原風景の一つなのではないか」と記している。これは世界の戦後世代に向けた、言葉を持たないひとつのメッセージである。 |
『FROZEN DREAM』 |
過去とおぼしき不確かな映像が流れる。しかし騙されてはいけない。そもそも映像とは、撮影された時点で過去を映し出すのだから、想い出の演出はお得意なのだ。そうは思っても、Four
Colorの“漂白されたノスタルジー"とも言うべき音楽に身を任せ、何かやり残した事があるのではないか、と喪失感にかられたあの夏休みの終わりを、つい想い出してしまうのだ。 |
『BORDER LAND』 |
とある衛星放送のインタビューで作者は、「僕の映画は異界への窓だ。見慣れた世界も角度を変えてカメラを覗けばガラリと変わる」と語っている。この作品がまさにそうだ。これは1万年の寿命を持った宇宙人の視点だろうか。あるいは、やがて滅びるかも知れぬ文明へのレクイエムだろうか。足立ハルキによる重厚なサウンドトラックが、SF映画をも思わせる壮大なクライマックスへと見る者を誘う。 |
『A LITTLE PLANET 〜小さな惑星〜』 |
目の前で、ピカピカの金属球が踊る。題名からすると、これが惑星なのだろう。しかしなぜこいつは、宙に浮いているのか!?まさか念力でもあるまい。あれよと思う間に、球体はその鏡面に風景を映しながら、野を越え河越え、街を抜け、電車にさえ乗って浮遊を続ける。まるで迷子の子供のように。頓知問答の様な、不思議な可笑しみをたたえた怪作。 |
『天演光(てんえんこう)』 |
デジタル合成に頼らず、カメラ内でフィルムを何度も巻き戻しながら映像を重ね合わせる技法を、多重露光と言う。焼き物や染色と同様、経験と勘、偶然を味方に呼び込む真摯さと度胸が要求される職人技である。この作品も「RAPID
FIRE」と同じく多重露光で作られている。もしも神がいるのなら、この世は天が演出しているのだろう。ビルの谷間に咲いた、猥雑な現代の神話。 |
『光の庭 〜Brilliant Garden 2004〜』 |
1999年の「BORDER LAND」に始まる作者の「風景シリーズ」は、2003年の「FRONTIER」で頂点を極めた。だからなのか、今年作られた最新作の「光の庭」は、煩悩から解き放たれた様な飄々とした表情を見せる。もしや、これこそ作者が本当に作りたかった映画なのではないか?しかし、本人は「風景シリーズ」終了を宣言してしまった。この先に、何が始まろうとしているのか。 |